『資本論』と党綱領の相違点

党勢後退の要因「社会主義・共産主義の問題」とは

党勢後退の要因分析において、「社会主義・共産主義の問題」を最大の客観的要因と位置づけている。この整理は、日本社会において社会主義・共産主義という理念が、長期にわたり強い不信や拒否感をもって受け止められてきた現実を、事実上認めるものである。

注目すべきは、その原因理解である。第29回党大会以後、日本共産党はこの問題を理論の誤りや歴史的総括の不十分さに帰すのではなく、「理解不足」「伝達不足」の問題としている。したがって必要とされるのは理論の再検討ではなく、理論を広げる大規模な運動だとする。

この論理の帰結として、『Q&Aいま「資本論」がおもしろい(赤本)』『Q&A共産主義と自由(青本)』さらに、『自由な時間と「資本論」(緑本)』といった志位和夫氏個人の著書が、党綱領の未来社会論を国民に伝えるための教材として位置づけられ、国民への『資本論』を読むムーブメントの形成が呼びかけられている。

ここでの『資本論』は、資本主義分析の理論書というよりも、政治目標としての未来社会像を補強する教科書として用いられている。

一貫性を持たない「社会主義」概念

日本共産党は、20世紀社会主義体制、とりわけ旧ソ連について、「社会主義ではなかった」と明確に否定してきた。その理由として、民主主義の欠如、官僚主義、大国主義・覇権主義などが挙げられる。この主張は、社会主義を単なる自己称号ではなく、実質的社会関係によって規定される理論概念として扱う立場に立っており、それ自体は理論的に成立しうる。

ところが一方で、党機関紙などの報道では、他国の地方政治家が富裕層課税などの社会政策を掲げ、本人が「社会主義者」「民主的社会主義者」を自称している場合、その政策内容が綱領の指摘する資本主義の制度的改革を含んでいなくとも、肯定的に「社会主義者」と表現される。

ここには明らかな情報の偏りが存在する。旧ソ連には厳格な理論基準を適用して否定する一方で、現代の進歩派政治家には自己称号と限定的政策内容をもって「社会主義者」と呼ぶ。この運用は、社会主義という概念を不明確にし、「理解を深める」どころか、混乱を招くのではないか。

国際的・学術的には特異な立場

欧米における近年の「社会主義者」支持の広がりは、多くの場合、資本主義の枠内での再分配強化、公共サービスの拡充、民主主義の回復をめざす動きであり、社会主義を完成された未来社会像として掲げるものではない。これは、日本共産党が「改善主義」として厳しく批判してきたはずの、いわゆる「社会民主主義」だ。

また、国際的マルクス研究の潮流においても、未来社会像の固定化に対する慎重姿勢が共有されている。日本共産党のように、『資本論』を綱領的未来社会論の根拠として積極的に用いる立場は、国際的・学術的に見ると特異である。

にもかかわらず、その違いは明確に説明されないまま、海外の「社会主義者」や研究者が、あたかも日本共産党の立場を補強する存在であるかのように扱われている。

『資本論』と党綱領の相違点

カール・マルクスの『資本論』は、資本主義の運動法則を批判的に分析するための理論研究であり、完成された未来社会像を提示する書物ではない。マルクス自身も、未来社会については断片的・規範的示唆にとどめ、歴史的条件に依存するものとして固定化を避けていた。

この理解は、近年の国際的マルクス研究、とりわけマルチェロ・ムストらによる「マルクス・リバイバル」においても強調されている。そこでは、『資本論』は政治目標を正当化する理論ではなく、資本主義を批判的に分析し続けるための柔軟な理論的枠組みとして再評価されている。

これに対し、レーニン主義的な「理論の政治目標化」の名残を持つ日本共産党の綱領は、『資本論』を土台とし、その到達過程はあいまいにしつつも、政治目標としての未来社会像、すなわち社会主義・共産主義社会を明確に提示している。問題は、その相違点が十分に自覚され、説明されていない点にある。

マルクスリバイバルで問われていること

日本共産党が直面している問題は、単なる国民の「理解不足」ではない。また、社会主義という言葉への抵抗感を弱めるために、異なる内容の「社会主義者」を肯定的に提示しても、それでは理解を深めたいとする社会主義像は明確にならない。むしろ概念の相違が後に必ず認識の反動を生むにちがいない。

『資本論』は政治を含めた現実を問い返す理論である。開かれた議論によって批判的機能を回復しない限り、「資本論ムーブメント」は理解深化ではなく政治的動員をめざす運動の失敗例に終わるだろう。

関連記事

日本共産党「資本論学習運動」の再検討――マルクス研究と綱領、現実政治的重点のズレ
マルクスは21世紀に何を語るか――MEGAが解き明かす「晩期マルクス」の真実(マルチェロ・ムスト)

タイトルとURLをコピーしました