20世紀のドグマを超えて――。MEGA(新全集)の最新知見に基づき、エコロジーや個人の自由を追求した「晩期マルクス」の真実を、現代マルクス研究を牽引するマルチェロ・ムスト氏が解き明かします。
ムスト氏『マルクス・リバイバル』を語る~ポスト資本主義への「自由な時間」と「地球の共生」~
マルチェロ・ムスト(ヨーク大学社会学教授)Webサイト
マルクス・リバイバル:マルチェロ・ムスト 2022/05/24 <YouTube動画>
以下は生成AIにより本講義を補正・校正したものです。
マルクス復興と21世紀のオルタナティブ
――マルチェロ・ムスト
みなさん、こんにちは。まずは、技術的な問題を解決してくれたジョン、そして私の前に登壇したマイケル・ラートナーに感謝します。特にマイケルには、ここで「マルクスの復活」について話すというアイデアを提案してくれたことに感謝しています。
本来、2020年6月にパンデミックが発生しなければ、本書の出版に合わせて数多くの会議や昼食会が企画されていました。それらの中止を経て、いまや本書は世界中で多くの言語に翻訳され、素晴らしい成功を収めています。また、ジョンが書いたエコロジーに関する著作も、現代で最も議論を呼ぶ興味深い一冊です。
こうした研究の進展を報告できることを嬉しく思います。私たちは困難な時期を過ごしてきましたが、研究の手を止めることはありませんでした。それは、前回の著作でも触れたように、マルクスや同僚たちと共に「資本主義に代わる選択肢(オルタナティブ)」を考えることが、現代を一歩前進させるために不可欠だからです。
新しい資料(MEGA)によるマルクス像の変革
2008年の世界金融危機以降、「マルクスの復活」が語られてきました。「マルクスは資本主義の危機の理解には役立つが、政治分析には向かない」という古い見方(シュンペーター的な二分法)がありますが、私は今、3つの新しい要素に注目しています。
第一に、若い世代の学者たちによる新しい貢献です。これは従来の「マルクス・レーニン主義」的な解釈からの決別を意味します。 第二に、MEGA(新マルクス・エンゲルス全集)の出版によってもたらされた「マルクス主義研究の革命」です。この批判的校訂版のおかげで、これまで知られていなかった膨大な原稿や研究ノートにアクセスできるようになりました。
1838年から1882年の間に記された200を超えるノートには、マルクスが完成させられなかった多くの構想が眠っています。私たちは、マルクスとエンゲルスの往復書簡だけでなく、彼らが受け取ったすべての書簡を含む網羅的な資料を読むことで、彼の学習プロセスを詳細に追うことができるようになりました。
「経済主義的・ヨーロッパ中心主義」からの脱却
ジョン・ベラミー・フォスターも言及したように、現代のマルクス解釈は革新的です。かつてマルクスは「経済至上主義的でヨーロッパ中心主義的な教条主義者」として描かれがちでした。しかし、新資料に基づけば、全く異なる姿が見えてきます。
晩年のマルクスは、資本と労働の対立という中心的な矛盾を超え、世界規模での資本主義の矛盾を分析していました。彼はインド、アルジェリア、メキシコ、中央アメリカにおける植民地主義の破壊的な役割を激しく批判しました。例えば、1850年代の『ニューヨーク・デイリー・トリビューン』への寄稿や、後期のノートを読めば、彼がいかに植民地主義に反対していたかが分かります。
マルクスは、イギリスがインドの農業を破壊し、飢饉を招いた事実を指摘し、「資本主義は進歩をもたらすのではなく、天然資源の強奪と環境破壊、そして新たな奴隷制をもたらす」と断じました。
多元的な視点:エコロジー、ジェンダー、自由
1872年以降のマルクスは、人類学(コヴァレフスキーなど)を学び、研究分野を大きく広げました。彼は、ヨーロッパの歴史的カテゴリーをそのまま他国に当てはめる「歴史の同質化」に警告を発しています。
また、これまで過小評価されてきた「個人の自由」「ジェンダーの解放」「国家主義への批判」といったテーマも、彼の晩年の研究には重要な部分として含まれています。これらは現代の政治課題にとって不可欠な要素です。
「初期マルクス」神話の克服
一つ重要な提案があります。それは「若いマルクス(初期マルクス)」にのみ真実を求める傾向を正すことです。 1844年の『経済学・哲学手稿』に見られる疎外論や、ヘーゲル弁証法に依拠した共産主義の定義は、当時26歳の学徒による定式化であり、まだ歴史哲学に近すぎる側面があります。
また、『ドイツ・イデオロギー』の有名な一節「午前中に狩り、午後に釣りをする」という描写も、新版の研究によれば、その多くはエンゲルスの筆によるものであり、マルクスは「夕食後に批判する」という言葉を付け加えたに過ぎないことが分かっています。これらはユートピア社会主義的な、あるいはからかい半分の表現であり、私たちが真に注目すべきは、その後のより詳細な「ポスト資本主義」の分析です。
ポスト資本主義への3つの鍵
マルクスの著作(『資本論』の膨大な草稿や『ゴータ綱領批判』、第一インターナショナルでの活動記録など)から、未来社会の姿として以下の3点を抽出できます。
- 集団的所有と「自由な時間」 資本主義は土壌の肥沃さを奪うように、労働力を極限まで搾取します。これを覆すには、単なる消費財の再分配ではなく、生産構造そのものを変え、生産手段をコミュニティの手に渡さなければなりません。共産主義の目的は、労働時間を短縮し、各個人が「自由な時間」の中で創造的な能力を開花させることにあります。
- エコロジー(地球との共生) マルクスは、地球の私的所有を否定しました。「社会全体、あるいは国家が地球を所有しているのではない。私たちは地球の寄託者に過ぎない」と述べ、良き家父長として、より良い状態で地球を次世代に引き継ぐべきだと主張しました。
- 真の自由の実現 共産主義とは、すべての個人が完全かつ自由に発展できる社会です。今日、「自由」という言葉は右翼やネオファシストに奪われてしまっています。しかし、本来のマルクス主義は「世界の自由」と結びついたものです。かつての「プロレタリア独裁」という概念の道具的・誤った引用を排し、自由のアジェンダを取り戻さなければなりません。
結論
私たちが過去の文献を読み直すのは、単に教条に従うためではありません。かつての左派の失敗の原因を理解し、現代に役立つ組織論と政治理論を再発見するためです。
マルクスの分析という「批判的な武器」を使い、資本主義に代わる社会を新たな視点から再考すること。それこそが、今を生きる私たちに課せられた緊急の課題です。ご清聴ありがとうございました。
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