マルクス・リバイバル㉓第11章「ジェンダー平等」――マルクスのジェンダー論をどう読むか

マルクス・リバイバル読解ノート

執筆者:ヘザー・A・ブラウン(Heather A. Brown)アメリカの政治学者、マルクス研究者。マルクス主義とフェミニズム、ジェンダー、家族論を専門とする。主著『マルクスにおけるジェンダーと家族』(2012年)では、晩年の民族学ノートなども検討し、マルクス自身の女性解放論をエンゲルスの見解と区別して再評価した。マルクスの思想の限界を認めながら、現代のジェンダー問題に通じる理論的可能性を探っている。


ブラウンは、マルクスのジェンダー・家族論が一般に認識されているより充実していることを示し、マルクス主義とフェミニズムの対話を再び開こうとする。

マルクスは、ジェンダー関係について完全に首尾一貫した理論を提示したわけではない。それでも、女性の抑圧や家族制度について重要な考察を残していた、というのがブラウンの立場である。

初期マルクスにおける女性の抑圧

ブラウンは、1844年の『経済学・哲学草稿』に注目する。マルクスはそこで、男女の関係に、人間の自然的なあり方がどこまで人間的になっているかが表れると論じた。

また、「プシェの自殺論」(1846年)では、抜粋した4つの事例のうち3つが女性の自殺であり、いずれも家族的・ジェンダー的抑圧と結びついている。マルクスはここで、家族制度とそれを支える道徳的権威を強く非難した。

『資本論』における女性労働

マルクスは、機械制大工業の導入によって、女性と児童が社会的生産に包摂されたことに注目した。それは、低賃金や過酷な労働による過剰な搾取を生んだ。一方で、家父長の支配の外で女性や児童の労働が産業に組み込まれることで、旧来の家族関係を解体し、「家族や両性関係のより高い形態のための新しい経済的基礎」をつくりだす可能性も含んでいた。ブラウンは、この矛盾した作用を捉えるマルクスの弁証法的な分析を重視する。

ただしブラウンは、問題点も指摘している。マルクスは女性の「性質」を自明視する工場監督官の言葉を問い直さず、そのまま引用していた。その後、女性たちが労働者の権利を求めて男性とともに闘う姿に接して、見方を改めたように見える、とブラウンは述べる。

『ゴータ綱領批判』でマルクスは、既婚者や子どもの数の違いによって、等しい労働でも実質的な分配に差が生じる例を挙げた。ブラウンはここに、家庭内労働(料理、掃除、育児)の使用価値を問い、公私の区別を再考する批判的視点の端緒を読み取る。ただし、マルクスが家庭内労働の価値を論じたかどうかは明らかではない、とブラウン自身も断っている。

『民族学ノート』と家族制度の歴史

晩年のマルクスは、モーガンの『古代社会』などを読み、家族制度と親族関係を研究した。マルクスは、メーンが私的家族を普遍的な出発点とみなしたことを批判した。家族は常に階層的で家父長制的だったわけではなく、現在の家族形態が唯一可能な形態でもない、というのがマルクスの見方である。

ブラウンはこれを、ポスト資本主義社会では家族が大きく変わらなければならないという含意として読む。

ブラウンによれば、マルクスは家族やジェンダー関係を静的なものとは捉えなかった。イロクォイ族の女性の地位についても、当時のヨーロッパ社会の女性より多くの権力をもつとしつつ、二重基準に基づいていた点を指摘している。

階級とジェンダーの関係

ブラウンが最も重視するのは、階級とジェンダーの相互関係である。初期のマルクス主義フェミニズムには、女性の抑圧を経済的条件から説明する経済決定論を無批判に受け入れる傾向があった。

これに対してブラウンは、マルクス自身は経済的要因と社会的要因の弁証法的な関係に注意を払っていたと論じる。マルクスは、資本主義に特殊な形態の経済と家父長制が相互作用して女性を抑圧するあり方を指摘し、階級とジェンダーのどちらにも根本的な優位を与えずに、両者の相互依存を、少なくとも暫定的には論じはじめていたという。これが、章の最終節の題にある「弁証法的交差性」の趣旨である。

さらにブラウンは、マルクスのカテゴリーが静的・非歴史的な定式ではなく、社会の変化に応じて変化する点に、アイデンティティと差異が顕在化する今日の世界でジェンダー関係を分析するためのツールとしての価値を見いだしている。

意義と限界

ブラウンは、マルクスの議論を万能視してはいない。マルクスのジェンダー論は、現代資本主義をジェンダーを含めて説明するという点では未展開である。ヴィクトリア的な限界や、ジェンダーの自然主義的な理解への逆戻りもある、と彼女は認める。

そのうえで、家父長制の歴史的に特殊な要素を、人類史の大半に存在した女性抑圧のより一般的な形態から区別できる点に、マルクスのカテゴリーの意義を見いだす。

結論としてブラウンは、マルクスの議論が、マルクス主義者とフェミニストの新しい対話のための材料と余地を提供すると述べている。


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