近年、日本共産党は長期的な党勢後退に直面している。党員数、機関紙購読者数、得票数など、多くの指標で減少傾向が続き、その克服は党にとって最重要課題となっている。
そのなかで志位和夫議長は、党勢後退の「客観的最大の要因」として、「社会主義・共産主義」に対する否定的イメージを挙げている。そして、この問題を乗り越えるために、社会主義・共産主義への理解を広げることを重視し、『資本論』学習や未来社会論の普及を運動の重要な柱として位置付けている。
確かに、20世紀の社会主義国家、とりわけ旧ソ連や東欧諸国の歴史が、日本共産党への評価に影響を与えていることは否定できない。冷戦期の記憶は現在も社会に残っており、「共産主義」という言葉に対して否定的な印象を持つ人が少なくないことも事実である。
しかし、本当に問題はそこだけなのだろうか。
もし党勢後退の最大の原因が「社会主義・共産主義への誤解」にあるのだとすれば、その理解を広げれば支持も広がることになる。しかし現実には、それだけでは説明できない多くの疑問が存在する。
「客観的要因」だけで説明がつかない疑問
例えば、日本共産党は1994年の綱領改定において、旧ソ連を「社会主義ではなかった」と位置付け直した。しかし、それ以前には「社会主義生成期の国」と評価していた時期がある。この評価変更自体は理論の発展として理解することもできるが、「なぜ当時そのように判断したのか」「何が誤りだったのか」という自己検証は十分に共有されてきたとは言い難い。
また、田村智子委員長は、「教科書が間違っている」と述べ、旧ソ連を社会主義国家として教える現在の歴史教育に異議を唱えた。しかし、多くの国民は義務教育を通じて旧ソ連を社会主義国家として学んでいる。ここには、日本共産党の歴史認識と一般市民の認識との間に大きな隔たりが存在している。
「党名変更」の議論
さらに、党名の問題もある。
党内外では以前から党名変更を提案する声が存在する。しかし、それに対しては「名前を変えても『元共産党』と言われるだけだ」という説明で議論が終わることが少なくない。
もちろん、「歴史は党名を変えても消えない」という指摘自体には一理ある。しかし、多くの提案者が問題にしているのはそこではない。
問われているのは、「共産」という名称を現在も掲げ続けることが、党の理念を社会へ伝えるうえで最も適切なのか、それとも20世紀の歴史認識による先入観を強める結果になっているのか、という政治的・社会的効果である。この論点を十分に検討しないまま議論を終わらせることは、支持者や一般市民が抱く疑問に正面から向き合っているとは言い難い。
個別の課題が収斂する「一つの問い」
こうした問題を考え始めると、疑問はさらに広がっていく。
- 『資本論』を学ぶとは何を意味するのか。
- 日本共産党が提唱する『資本論』の読み方は、現代マルクス研究の中でどのような位置付けにあるのか。
- 未来社会論を運動の入口に据えることは、今日の社会で本当に有効なのか。
- 海外の左派政党は、理念をどのように形成し、社会へ広げているのか。
- SNSによって政治と世論形成のあり方が大きく変化した現在、政党はどのように市民と対話すべきなのか。
これらは一見すると、それぞれ別々の問題のように見える。しかし、本当にそうだろうか。
本連載では、これらの問題は最終的に一つの問いへ収斂すると考えている。それは、
日本共産党は、社会との対話、学術研究、現実の運動、国際的経験を取り込みながら、自らの理論や理念を不断に更新できる組織なのか。
という問いである。
もし、そのような回路が十分に機能しているのであれば、旧ソ連評価、党名問題、『資本論』の読み方、運動の入口、SNSへの対応なども、自由な議論を通じて不断に検証され、必要に応じて修正されていくはずである。
逆に、その回路が十分に機能していないのであれば、個々の論点に対する対応だけでは、問題の根本的な解決には至らないだろう。
本連載のスタンス
本連載は、日本共産党を批判・擁護すること自体を目的とするものではない。
日本共産党を一つの事例として、社会主義・共産主義とは何か、マルクス思想を現代にどのように継承すべきか、左派政党はいかに理論や理念を形成・更新すべきかを考察することを目的としている。
そのため、一次資料や学術研究を重視するとともに、日本共産党の見解も可能な限り正確に紹介し、海外左派や現代マルクス研究との比較も行いながら議論を進めていきたい。
次回予告:第2回「旧ソ連は社会主義だったのか」 日本共産党の旧ソ連評価の変遷をたどりながら、評価変更そのものではなく、その「説明責任」と「理論形成のあり方」について考察する。
※本連載の全体像や基本方針は、こちらの案内ページをご覧ください。
