共産党研究 第Ⅳ部① 理念はどこで形成されるのか
はじめに
アメリカで、社会主義を公然と掲げるDSA※(Democratic Socialists of America)が存在感を強めている。2025年にはDSAの会員数が大きく増加し、2026年現在、DSAは10万人を超える会員を擁するとしている。
DSA自身の集計では、2025年だけで会員数は65.6%増加した。2025年にはDSA会員のゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長選挙に勝利し、2026年にもDSAが推薦する候補者が各地の民主党予備選で勝利している。
もちろん、これを「アメリカで社会主義が多数派になった」と理解することはできない。2025年のGallup調査でも、米国民全体では社会主義への肯定的評価は少数派である。
一方、民主党支持者では66%が社会主義を肯定的に評価し、資本主義を肯定的に評価した42%を大きく上回った。少なくとも民主党支持層、とりわけ若い世代を中心に、「社会主義」という言葉に対する従来の拒否感が弱まっていることは確かである。
日本共産党を見れば、2024年衆院選では比例336万2千票、6.16%、7議席だったのが、2026年衆院選では251万9千票、4.40%、4議席となった。(2025年参院選は比例286万4千票、4.84%)党自身は2026年総選挙を「重大な後退」と評価している。
なぜ、同じように資本主義を批判し、富裕層への課税、労働者の権利、医療、住宅、教育などを重視する左派政治勢力でありながら、一方では新しい支持や参加が生まれ、他方では後退が続いているのだろうか。
本稿では、DSAが支持を広げている要因を分析し、そこから日本共産党が直面している課題の根源を探ってみたい。
- ※ 章末『補足解説(DSAの「民主社会主義」とは何か――共産主義との違い』参照
1. DSAの特異な組織構造と選挙戦術
DSAは法律上の政党ではなく、会員によって運営される独立した社会主義の政治組織である。全50州に支部(チャプター)を持ち、地域での社会運動(労働組合支援、住宅運動など)と選挙活動を両輪としている。彼らの特徴は、大きく以下の2点に集約される。
① 「Big Tent(大きなテント)」型の組織運営
DSAは思想的一枚岩ではない。内部には民主社会主義、社会民主主義、マルクス主義、無政府主義など、さまざまな思想や政治戦略をもつ潮流が共存している。したがって、選挙戦術、民主党との関係、外交政策、社会主義への移行戦略などをめぐってかなり激しい論争がある。
それは決して組織運営が常に円滑だという意味ではない。むしろ、対立が深刻になることもある。しかし重要なのは、異なる潮流が存在することそのものを、組織の異常な状態とはみなしていないことである。
共通する考えをもつ会員は「コーカス(caucus)」と呼ばれるグループをつくり、組織の方針をめぐって公開の議論を行う。全国大会で争い、その結果によって方針も変わる。
2026年のプログラムも、こうした政治的な幅を前提として作られている。これは、理念が最初から完全な形で存在し、それを全会員が正しく理解して実行するという組織観とはかなり違う。
このように、理念や政策は中央から与えられる完成品ではなく、地域活動、社会運動、選挙、全国大会など実践と内部論争を通じて形成・修正されていく。
② 民主党という「政治空間」の戦略的利用
米国の二大政党制のもと、DSAは独自の第三党候補としてではなく、主に民主党予備選を利用して候補者を擁立する。背景には、米国の二大政党制と小選挙区・最多得票制がある。独自左派政党として立候補すれば、民主党候補との票の分散によって共和党を有利にする可能性が高いからだ。
民主党は、DNC(Democratic National Committee:民主党全国委員会)という全国組織、州民主党、地方組織、議員、候補者、それぞれの選挙運動、活動家や支持者などが重なり合う多層的な構造をもっている。
候補者選定についても、党の指導部だけでなく、有権者が参加する予備選が大きな意味をもつ。DNC自身も近年、「party bosses(政党のボスたち:党幹部)ではなく有権者が候補者を選ぶことを重視すると説明している。この構造があるからこそ、民主党内部では、主流派と左派が同じ予備選で激しく争うことができる。
民主党主流派とは重大な政策的不一致があるものの、彼らとあえて同じ土俵に上がり、数百万人の有権者が参加する空間で直接、社会主義的政策の是非を問う戦術をとっている。
2026年11月の米中間選挙に向けた8月11日のウィスコンシン州知事選の民主党予備選※では、DSA会員のフランチェスカ・ホン氏が民主党主流派のデービッド・クロウリー氏とほぼ互角の選挙をたたかった。クロウリー氏は約39.8%、ホン氏は約39.4%で、差は数千票だった。ホン氏は敗北後、共和党候補に勝つためクロウリー氏を支持すると表明した。
つまり、政策的に競争する→ 予備選で争う→ 結果を受け入れる→ 一致する目的では協力するという関係が成立している。これは、政策的一致と組織的一致と選挙協力とを、すべて同じものとして扱わない政治のあり方でもある。
※ 米国中間選挙とは 大統領任期4年の中間である2年目末に行われる。2026年は11月3日に実施され、全米39州の州知事選と連邦議会の下院全435議席と上院約3分の1の改選がある。政権に対する「中間評価」の意味合いを持ち、今後の政策運営に大きな影響を与える。(ネット調べ)
2 なぜ近年DSAは支持を広げているのか
DSAの躍進は、単なる戦術の巧みさだけでは説明できない。以下の要因が複合的に絡み合い、「社会の要求」と「組織の拡大」の間に強力な好循環を生み出している。
① 「社会主義」を現在進行形の生活問題として提示している
DSAは、社会主義を遠い未来の理想としてではなく、「高すぎる家賃」「医療費の負担」など、目の前の生存権に関わる問題(affordability)への対案として語る。具体的な生活改革を進める過程で、「富は誰のためにあるのか」という社会の仕組みそのものの問題へと有権者を導いている。
マムダニ氏が前面に掲げたのは、家賃凍結、無料バス、無償・低負担の保育、公営・補助型食料品店、富裕層への増税など、「ニューヨークでどうすれば暮らし続けられるのか」という具体的な問題だった。英ロイター通信も、彼の選挙戦の中心を「affordability(暮らしやすい負担水準)」だったと総括している。
② 社会運動と選挙がシームレスに結合している
日常的な地域活動や労働運動の延長線上に候補者を生み出し、選挙戦を展開する。これにより、「要求 → 運動 → 共感 → 参加 → 組織の拡大 → さらに大きな運動」というボトムアップの循環が生まれている。
マムダニ氏の2025年選挙では、予備選の段階だけでも1万を超えるボランティアが参加し、100万戸以上への戸別訪問が行われた。AP通信の報道によれば、政治活動の経験がなかった若者までが参加し、「自分もこの運動の一部になりたい」と集まったことを報じている。
これは単なる「自力」の大きさではない。先に組織が大きくなり、その大きな組織が有権者を動かしたという一方向の関係ではない。魅力を感じた人が運動に参加し、その参加によって組織がさらに大きくなる。
③ 組織の評価と社会の評価を往復させるシステム
DSAの最大の特徴は、「誰を組織として推薦するか」と「誰を有権者が選ぶか」が分離されている点にある。
DSAは厳しい基準で候補者を推薦するが、その評価だけで候補者の価値は確定しない。推薦された候補者は予備選で有権者の審判を受け、敗れれば組織として政策や戦術の再検討を迫られる。
「組織による評価 → 社会での実践 → 有権者(社会)からの評価 → 組織へのフィードバック」という往復回路が、組織を常に社会の現実にチューニングさせているのである。
3. 日本共産党との比較
日本共産党がDSAを高く評価するなら何を学ぶべきか。以下の3点を比較して考えてみたい。
① 大山氏非公認問題が浮き彫りにしたもの
日本共産党神奈川県委員会が、党運営に異論を唱えた大山奈々子県議を次期県議選の党候補にしないと決定した。
大山氏は2015年から神奈川県議を務め、日本共産党県議として活動してきた。2024年1月の第29回党大会では、党勢拡大や党運営について発言し、田村智子委員長の結語で厳しい批判を受けた。
神奈川県委員会は2025年11月、2027年県議選で大山氏を党候補にしないことを決定した。県委員会は2026年3月31日の声明で、その理由を、大山氏が「党の決定に反する意見を党外に発信する行動を繰り返してきた」ことにあると説明した。
大山氏はその後離党し、県議団からも離脱した。本人は、開かれた組織運営を求めるX上の発言などが問題にされたとしている。
党規約に照らせば、決定に反する意見を党外で発信した者を公認しないという県委員会の判断には一定の論理がある。しかし、DSAとの比較において真に問うべきは、「その判断に対し、社会や有権者の評価が介入する回路がどこにあったのか」という構造的な問題である。
DSAがある候補者を推薦しなかったとしても、DSA自身が民主党予備選への立候補資格を最終的に決定するわけではない。一定の資格を満たせば予備選に出ることができる。そして、予備選という場で最終的に有権者がその人物を評価する機会が残されている。
一方、日本共産党では、党機関が「公認しない」と決定すれば、その人物が「党の代表としてふさわしいか」を一般有権者が判断する場は事実上失われる。そうなれば、他政党や無所属など別の形で立候補せざるを得ない。
「誰を組織の代表とするか」という党の内部論理と、「誰を社会が必要としているか」という社会の評価を、完全に同一視してしまってよいのか。この回路の欠如が、社会とのズレを生む要因の一つではないだろうか。
② 限界を迎える「自力不足」論
2026年衆院選で日本共産党は、比例得票を2024年の336万2千票から251万9千票へ減らした。党はその後退について自己検討を行い、要求対話・アンケートの中断や比例ブロックごとの目標設定の遅れなど、中央のイニシアチブの弱点も認めている。
一方で、後退の「根本」あるいは「最大の要因」については、「党の自力不足(党員や読者の減少)」にあったとしている。
確かに、日常的に有権者へ働きかける力が弱まれば選挙には勝てない。しかし、「なぜ党員や支持者が減っているのか」「なぜ新しい人が入ってこないのか」という問いは、自力不足という言葉では説明できない。DSAの例が示すように、「組織が大きいから支持される」のではなく「支持される活動・あり方をしているから組織が大きくなる」のだとすれば、自力の低下そのものが「社会からの評価の結果」である。
日本共産党とDSAの政策を比較すると、生活問題ではかなり重なる部分がある。大企業・富裕層への課税、労働者の賃金、医療、教育、住宅、ジェンダー平等など、日本共産党も多くの具体的政策を掲げている。2026年総選挙でも「物価高から暮らしを守る」ことを主要政策としていた。
問題は、政策の有無だけではないのではないか。その政策が、社会の要求からどうつくられたのか。誰がその政策形成に参加したのか。候補者がどのように選ばれたのか。異論がどのように扱われたのか。政策が支持されなかったとき、何を検証するのか。という、政策形成の過程そのものも社会から見られている。
日本共産党では、規約上「党内に派閥・分派はつくらない」とされ、決定に反する意見を党外で勝手に発表しないことが義務づけられている。ここには、日本共産党自身が今後検討すべき大きな問題があるのではないか。
異論をどこまで許せば組織としての統一が維持できなくなるのか。逆に、統一を維持するための規律が強すぎれば、社会の多様な意見を組織内部へ持ち込む回路が細くならないか。大山氏の問題も、この問いを具体的な形で示している。
③ 共闘の問題――異なる勢力との競争と協力をどう考えるのか
DSAは民主党主流派と政策的に競争し、予備選では相手を破るために選挙をたたかう。それでも結果が出た後には、共和党への対抗など共通する目的について協力する。違いは違いとして残し、一致するところで協力するという関係である。
日本共産党も、綱領上は幅広い統一戦線を社会変革の力として位置づけ、実際に野党共闘にも取り組んできた。そうであるなら、党内外を問わず、自分たちと完全には一致しない人々との関係をどう構築するのかは根本的な問題だ。政策上の違いをもつ政党と連立政権を構想するのであれば、なおさらである。
おわりに:政党と社会の往復関係
マルクスの自己解放の考え方に立つならば、社会変革の主体は政党ではなく、労働者・市民自身である。政党は社会の上に立って大衆を導く存在ではなく、社会の実践のなかで常に評価され、変わらなければならない存在だ。
DSAから学ぶべき最も重要な点は、特定の政策や予備選制度そのものではない。組織が社会に働きかけ、社会が組織を評価し、そのフィードバックが再び組織のあり方(候補者選定、異論への対応、政策形成)を変えていくという「ダイナミックな往復関係」である。
日本共産党が支持を広げられない理由を考えるとき、「どうすれば党の正しさを伝えられるか」という啓蒙的な問いから出発するべきではない。
「なぜ今、社会は我々を選んでいないのか」「社会から返ってきた評価を受け止め、党自身が変われる仕組みがあるか」。その厳しい現実を直視することこそが、再生への出発点になるはずだ。
取り組んでいる「手紙の返事」は、実質、規定の理念政策の推進に利用されているだけだ。方針として示した「双方向、循環型」を、かけ声だけに終わらせないことが求められているのではないか。
【補足解説】
以下はDSA理解を深めるための補足である。
DSAの「民主社会主義」とは何か――共産主義との違い
1. 英語における用語の整理
DSAの正式名称は「Democratic Socialists of America」(アメリカ民主社会主義者)であり、彼らの公式な立場は単なる socialism ではなく「democratic socialism(民主社会主義)」である。彼らの立場を正確に理解するために、以下に英語の用語を押さえておく。
- 社会主義 = socialism
- 社会主義者 = socialist
- 民主社会主義 = democratic socialism
- 民主社会主義者 = democratic socialist
- 共産主義 = communism
- 共産主義者 = communist
2. 資本主義の「改良」ではなく「置き換え」を目指す
「社会主義=資本主義の改良、共産主義=資本主義の廃止」と単純に分類されることがあるが、DSAの民主社会主義はその枠には収まらない。現在のDSAは、明確に資本主義のシステムを超え、より民主的なシステムに置き換えることを目標に掲げている。
DSAの公式プラットフォーム(綱領)では、資源と生産の民衆による統制に基づくビジョンを共有し、「資本主義の野蛮な古い秩序の克服」を宣言している。また、階級社会を廃止し、大企業や基幹産業を公有化(集団的所有)することを展望している。
これは、資本主義の枠内で福祉や労働者の権利を拡充しようとする第三の道的な「社会民主主義(social democracy)」とは一線を画す立場である。
3. なぜ「共産主義(Communism)」と呼ばないのか?
資本主義を超え、階級のない社会を展望する点では、DSAの思想は共産主義と重なる部分が多々ある。しかし、DSAは自らを「共産主義組織(communist organization)」とは呼ばない。そこには以下の明確な理由がある。
- 民主主義の徹底と拡張: DSAは、民主主義を単なる「政治や選挙」にとどまらず、職場、経済、社会生活のあらゆる領域に拡張すること(経済民主主義や職場における民主主義)を核心的な目標としている。彼らのプラットフォームには「社会主義は民主主義の完全な実現である(Socialism is the complete realization of democracy)」と記されている。
- 権威主義的体制の拒絶: 20世紀以降、「共産主義」という言葉は、ソ連型体制やレーニン主義、一党独裁といった特定の歴史的・政治的伝統を指す言葉として定着した。DSAは、このような中央集権的で権威主義的な社会主義(ソ連型の指令経済モデルなど)を明確に拒絶し、分権的で民主的な体制を提唱している。
4. 多様な潮流を内包する「ビッグ・テント」
特定の教義に基づく一枚岩の前衛党を目指すことが多い共産党とは異なり、DSAは「ビッグ・テント(包括的)」かつ「マルチ・テンデンシー(多潮流)」な組織として運営されている。
内部には、急進的な改革を求める層から、資本主義の根本的な置き換えを求めるマルクス主義的な潮流まで、多様な左派活動家が共存している。
まとめ
DSAの「democratic socialism(民主社会主義)」は、資本主義を超克し階級のない社会を目指すという点で急進的なビジョンを持ちながらも、過去の権威主義的な体制を否定し、「手段としての民主主義」と「目的としての民主主義」の双方を徹底して追求する独自の政治的スタンスである。
次回予告 第Ⅳ部「理念はどこで形成されるのか」【第13回】KPÖはなぜ支持を広げたのか

