はじめに――何を問われているのか
差別や排外主義に反対することは重要である。特定の民族や国籍の人々を攻撃し、社会から排除しようとする言動に対して、政治が明確な姿勢を示すことにも意義がある。しかし、目的が正当であることと、その目的を実現する手段が適切であることは、別の問題である。
2013年ごろ、在日コリアンなどを標的とする排外主義的な街頭活動が社会問題となった。その中心的な団体の一つが「在日特権を許さない市民の会」(在特会)である。こうした活動に抗議する市民の行動は「カウンター」と呼ばれ、各地に広がった。
日本共産党は、このカウンター運動を肯定的に紹介し、関係者とも交流してきた。一方、運動の一部では、罵倒や威圧、演説妨害など、抗議の手段をめぐる問題が繰り返し指摘されてきた。
2026年7月2日、党は、暴力行為を連想させるパフォーマンスを党員が行ったり支持したりすることは許容できないとする見解を発表した。しかしその後も、党に関係する催しへの活動家の出演や、党員による反差別運動への参加は続いている。

問われているのは、反差別運動を支持するか否かではない。党が運動の目的と手段をどう区別しているのか、自ら示した原則を具体的な活動にどう適用しているのか、そして、これまでの関与についてどのように説明責任を果たしているのか。この三点である。
1.2013年から続くカウンター運動との関係
日本共産党と「しんぶん赤旗」は、カウンター運動を、差別や排外主義に反対する市民の行動として肯定的に紹介してきた。
その関係は報道にとどまらない。2014年の赤旗まつりでは、反差別・反ファシズムを掲げる音楽活動「ATS(Anti-Fascist Sound)」が出演する企画が組まれ、吉良よし子参院議員がゲストとして紹介された。
ATSは、野間易通氏が2013年に結成した「レイシストをしばき隊」(通称「しばき隊」)を前身とする「C.R.A.C.(Counter-Racist Action Collective、対レイシスト行動集団)」に関係する活動である。
2015年3月には、日本共産党国会議員団がC.R.A.C.関係者と国会内で懇談した。C.R.A.C.側からは野間氏や青木陽子氏が、党側からは小池晃、仁比聡平、田村智子、池内さおりの各国会議員が出席した。懇談ではヘイトスピーチ根絶に向けた対策について意見が交わされ、小池氏は今後も意見交換を続ける意向を示した。
ただし、当時すでに、カウンター運動での激しい罵倒や威圧的な抗議方法は問題視されていた。党はこうした問題を把握していたのか。把握していたのであれば、どう評価し、関係者に何を求めてきたのか。確認できた限り、党の公式発信にはこの点についての十分な説明が見当たらない。
2.2025年に表面化した運動の手段をめぐる問題
2025年には、カウンター運動に参加していた日本共産党員(当時)の家登みろく氏の行動をめぐり、党自身の対応が問われる出来事があった。
同年1月の埼玉県戸田市議選で、家登氏は、日本共産党のむとう葉子候補の街頭宣伝に予告なく加わり、外国人差別への抗議を始めた。このため選挙活動に混乱が生じ、地元の党組織との間で問題となった。
一方、小池氏は、自身の動画番組で家登氏を好意的に紹介していた。その後、地元の事情を十分に確認していなかったことを認めて謝罪した。
小池晃氏の謝罪動画
ここで問われたのは、個々の活動家の行動をどう評価するのか、また、党として紹介する際にどのような確認を行うのか、という点である。
同年8月22日、田村智子委員長は記者会見で、参政党の街頭演説に対してスモークをたき、中指を立てるなどした抗議行動について見解を問われた。田村氏は、市民の個々の行動への評価を避ける一方、ヘイトスピーチを聞こえなくさせる抗議行動を容認する趣旨の発言をした。また、党員がそのような抗議活動に参加するしないは自由だと明言した。
8月22日の記者会見(頭出し)
しかし25日、発言の一部撤回を目的とする会見を開き、「市民の行動の是非についてコメントをすることは適切ではない」という党の立場を改めて表明した。一方、党員が参加する場合の具体的な抗議のあり方については、「それぞれの党組織の中で議論していきたい」と説明した。
会見では、除籍された党員を擁護して抗議した党員が除籍された事例が挙げられ、「市民としての自発的な行動」との違いが問われた。田村氏は、党の方針に反する行動には対応が必要だと述べ、「今回のものとは全く違う」と答えた。
さらに、質問者からは、スモークなどを用いた抗議行動について「やってはいけないことは、やってはいけない」と党として明言すべきではないかと繰り返し指摘された。しかし田村氏は、「言論には言論で」という原則を強調しながら、問題となった具体的な行為の是非については判断を示さなかった。
8月25日 発言撤回の記者会見
カウンター行動ではどのようなものであっても党員個人の市民としての自由を強調し、党の処分への抗議では党の規律を強調する。党員の自発的な行動をどこまで認めるのか、それらの基準が示されなければ、党に都合のよい使い分けではないかという疑問は避けられない。
市民運動の自主性を尊重することと、党として抗議手段の是非を判断することは別である。「言論には言論で」「道理と節度」という原則を掲げても、何が許され、何が許されないのかを具体的に示さなければ、党員も市民もその意味を判断できない。これでは、党見解が実際のカウンター行動を評価する基準として機能しないのではないか。
市民運動が政党から独立して活動することは当然であり、党がすべての参加者の言動に責任を負うわけではない。しかし、党員が参加し、運動やその関係者に関与している以上、単に外部の市民活動だという説明では整理できない。どこまでが個人の行動で、どこからが党としての活動なのか。その区別と責任の範囲が問われる。
3.2026年7月2日、党は何を表明したのか
2026年6月、日米などの首脳や政治家を模した標的を使う射的形式のパフォーマンスが問題となった。そして、7月2日、日本共産党は「反動政権、排外主義に反対する運動のあり方について」と題する無署名の見解を発表した。

コメントなしの小池氏のX投稿:志位氏、田村氏、市田氏も同日に同様の投稿

見解は、暴力行為を連想させるパフォーマンスを党員が行ったり支持したりすることは、党の立場と両立せず、許容できないと明言した。また、反差別・反排外主義の運動が広範な市民の支持を得て発展するためには、道理と節度が重要であるとの立場を示した。
これは、党が抗議運動の手段について一定の倫理的基準を明示したものであり、重要である。党は以前から市民的モラルを重視してきたと説明している。そうであれば、なおのこと問うべき点がある。
2013年以来、運動の一部で指摘されてきた罵倒や威圧的な言動に、党は従来の原則に基づいてどう対応してきたのか。今回あらためて示された見解は、問題となる行動と許容される抗議方法をどのような基準で区別しているのか。これらを検証する必要がある。
4.10月3日の赤旗まつりと出演者の問題
7月2日の見解から約3か月後の10月3日、愛知県豊橋市で「東三地区赤旗まつり・みんなの平和フェス」が開催された。主催は実行委員会で、問い合わせ先は日本共産党東三地区委員会である。文化ステージには「コメディアン 漂乙(ひょうおつ)氏」が出演した。
漂乙(ひょうおつ)氏については、以前から、対立する相手に侮辱的・威圧的な言葉を向けている。本人のXアカウント「漂泊野乙燦」では、10月3日に参政党に対して「全員やめろカスども」と投稿し、別の投稿でも相手に「はよ小学校卒業しろクソガキ」と述べている。さらに、抗議活動の現場で相手を激しく罵倒し、警察官に制止される様子を収めた動画もある。

こうした言動を、党はどう評価しているのか。7月2日に示した「道理と節度」という原則は、党員だけに求めるものなのか。それとも、党に関係する催しの出演者選定にも適用されるのか。
出演依頼がその人物のすべての言動への賛同を意味するわけではない。しかし、党が自ら掲げた原則に照らし、出演者の言動をどう判断したのかについては、説明が求められる。
5.10月5日「赤旗」が示した党の積極的な関与
10月5日付の「しんぶん赤旗」は、「共産党、各地で反差別へ踏み出す」「市民と力合わせ 排外主義に抗う」との見出しで、名古屋での取り組みを紹介した。この記者(前田智也)の記事によれば、反差別運動の現場に日本共産党の地区委員長や地方議員が参加し、市民の要望に応じて党として活動を進めてきたという。
記事に登場するJCPサポーターとは、2017年12月に日本共産党中央委員会が発足を決定した、党を応援するための登録制度の参加者である。記事の中で、このサポーターは、共産党が反差別運動への参加を決断したことへの信頼を表明し、今後も差別に抗う現場に党がいてほしいと語っている。
ここで注目すべきは、党が市民運動を外部から評価するにとどまらず、党自身の活動として現場への参加を進めている点である。党員やJCPサポーターがカウンター運動に公然と参加し、党組織が参加を判断して機関紙で積極的に紹介している。
2025年8月の田村委員長の説明では、市民による抗議活動と党としての活動は区別されていた。ところが10月5日の記事が紹介しているのは、党が市民の要望を受けて参加する取り組みである。
党が自ら参加を判断した以上、どのような抗議方法を支持し、どのような方法は支持しないのかを説明する必要がある。反差別運動への積極的な参加を報じながら、抗議手段についての原則や過去の問題との関係を説明しなければ、党が何を基準に行動しているのかは、市民にも党員にも伝わらない。

6.党員、JCPサポーター、市民運動の関係と責任
日本共産党員、JCPサポーター、一般のカウンター参加者は区別する必要がある。党員は、党規約や党の決定に基づく責任を負う。JCPサポーターは党を応援する立場だが、必ずしも党員ではない。カウンター運動には、党を支持しない市民も参加している。
したがって、カウンター運動の一部で問題が生じたからといって、それを直ちに日本共産党の責任とすることはできない。しかし、党が関係者と交流し、党に関係する催しに招き、党組織として共同の活動に参加する場合、そこには党自身の判断が伴う。
参加者が党員でないことや、市民運動の自主性を理由に、そうした判断についての説明責任まで免れるわけではない。一般の市民から見れば、党員、JCPサポーター、カウンター参加者の区別は必ずしも明瞭ではない。党は、自らの関与の範囲を明らかにするとともに、運動の目的への賛同と、個々の参加者の行動への評価とを区別して示す必要がある。
7.党中央に求められる説明責任
反差別運動から距離を置くべきだと主張しているのではない。問われているのは、反差別という目的を共有することと、運動の手段をどう評価し、どこまで責任を負うかという問題を、別々に考えられているかどうかである。目的への賛同が、あらゆる手段への無条件の支持を意味するわけではない。しかし現状では、党中央が手段について独自の判断を示してきたのかどうかが、外からは見えにくい。
第一に、2013年以来のカウンター運動との交流や共同を、党はどう評価しているのか。運動の一部で罵倒や威圧的な言動が問題とされてきたことを、党中央がどう認識し、どう対応してきたのかは、明らかになっていない。
第二に、2025年8月の田村委員長の説明と、2026年7月2日の党見解との関係が分かりにくい。両者はどのように整合するのか。また、党員個人としての参加と党組織としての参加について、党は責任の範囲をどこに置いているのか。この線引きが示されない限り、どこまでが党の責任なのかを外から判断することはできない。
第三に、7月2日の見解で示された「道理と節度」の原則が、実際にどう運用されているのかが見えない。党の催しの出演者選定や、市民運動との共同活動に、この原則は適用されているのか。適用されているとすれば、その基準は何か。
第四に、抗議手段をめぐる問題が生じた場合の判断の仕組みが不明である。誰が事実を確認し、何を基準に是非を判断するのか。その判断に異議がある場合、党員や関係者が検証を求める手続きは用意されているのか。基準も手続きも示されなければ、原則は掲げられているだけで、機能しているとは言えない。
第五に、これまでの対応を党として検証したのかどうか、検証したのであればその結果と今後の方針を、党員や市民にどう説明するのかが問われている。
これらの問いは、個々の活動家を排除しようとするものではない。党が自ら掲げた原則を、過去の活動にも現在の取り組みにも一貫して当てはめ、その判断を第三者にも検証できる形にすることを求めているのである。
反差別の理念を掲げる以上、その実践のあり方についても、党自身が説明責任を果たさなければならない。
おわりに――党自身の原則を検証する
党は、カウンター運動を肯定的に紹介し、関係者とも交流してきた。運動の参加者には党員も含まれていた。問われているのは、こうした過去の活動と現在の取り組みを、自ら掲げた原則に照らして検証できるかどうかである。
Xに投稿された漂乙(ひょうおつ)氏と小池氏の画像

差別や排外主義に反対するという正当な目的が、あらゆる抗議手段を正当化するわけではない。党中央は、これまでの関与についての見解と、今後の具体的な対応方針を明らかにすべきである。
<関連記事>


