はじめに
日本共産党は近年、『資本論』学習を党活動の重要な柱に据えている。志位和夫議長の『Q&Aいま『資本論』がおもしろい』(赤本)や『Q&A 共産主義と自由』(青本)を活用した学習会が各地で開かれ、党大会決定でも「資本論と科学的社会主義の学習」が重視されている。
しかし、その前に考えたい問いがある。そもそも『資本論』は何のために学ぶのだろうか。この問いへの答えによって、『資本論』の読み方も、その意義も大きく変わる。本稿ではまずこの問いを考え、その視点から日本共産党の学習方針を見つめ直したい。
1. 『資本論』を学ぶ目的とは何か
『資本論』は19世紀に書かれた古典である。しかし、その価値は19世紀の経済を知ることだけにあるのではない。格差の拡大、金融資本の肥大化、AIや自動化による労働の変化、気候危機、ケア労働の問題など、現代資本主義を理解するうえで、今日なお重要な視点を与え続けている。
そのため世界では、多くの研究者がマルクスを読み直している。目的は、マルクスを信奉することでも、特定の思想を普及することでもない。現代社会をより深く理解するために、『資本論』を一つの重要な手掛かりとして読み直しているのである。したがって、『資本論』を学ぶ目的は、現代資本主義を理解することにある。
2. 日本共産党の『資本論』学習
もちろん、日本共産党も資本主義を理解するために『資本論』を学ぶことを重視している。しかし近年の党大会決定や活動方針を見ると、『資本論』学習はそれにとどまらない役割を担っている。党の理論への確信を深め、志位氏の著作を広げ、支持拡大や党勢拡大へ結び付ける活動として位置付けられている。
このような学習方針については、いくつかの論点があるように思われる。
第一に、『資本論』学習の目的が、現代資本主義を理解することよりも、党の理論への確信を深めることへと比重を移しているように見えることである。
第二に、近年の学習では、資本主義の分析よりも、共産主義という未来社会論が前面に押し出されているように見えることである。未来社会を構想することは重要な課題であるが、それは『資本論』による資本主義分析とは区別して検討されるべき問題でもある。
第三に、未来社会論が、現代の政治課題への答えとして過大な役割を担わされているように見えることである。共産主義の理念を語ることと、今日の社会が直面する具体的課題への現実的な対応を示すことは、本来、区別して考える必要がある。
これらは、『資本論』を学ぶこと自体を否定するものではない。むしろ、その学習の目的や位置付けを改めて考えるための問題提起である。
3. 「原典を読む」ということ
志位氏は『資本論』の原典に学ぶことの重要性を繰り返し強調している。この姿勢自体は理解できる。しかし、それを学習の基本的な形として示すことには現実的な限界がある。
『資本論』全3部は膨大かつ難解な著作であり、多くの人が原典だけで内容を理解することは容易ではない。実際には、翻訳、注釈書、入門書、研究書などを手掛かりに理解を深めていくことになる。
そうである以上、重要なのは「原典か解説書か」という二者択一ではない。どのような解説や研究に学び、『資本論』をどのように読むのかである。
おわりに
『資本論』は、一つの決まった読み方だけが存在する書物ではない。日本共産党の読み方も、その一つとして検討の対象となる。次章からは、現代のマルクス研究との比較を通して、今日『資本論』を学ぶ意味をさらに考えていきたい。
次回予告 第8回:志位理論をどう考えるか
志位著作「青本」「赤本」は何を伝えているのか。伝統的マルクス解釈と今日のマルクス研究、そして、『資本論』が果たす役割などについて考えたい。
<資本論の入門書>



