第30回党大会に向けて――日本共産党の「異論排除」と再生への条件

組織・運動

手続きの自己目的化がもたらす組織の空洞化
―碓井敏正氏の組織論と会見発言から読み解く―

はじめに

組織の維持や規律の遵守という名目のもとで、現場からの切実な声や合理的な改善提案が理不尽に退けられるとき、何が失われるのか。

1972年の「新日和見主義事件」と、2023年の松竹伸幸氏除名問題。半世紀を隔てた二つの事件は、異論が内容そのものの検討よりも「組織原則」や「規律」の問題として処理されるという点で、共通する構造を持っている。

この問題を考えるうえで、哲学者・碓井敏正氏が『日本共産党への提言』などで提示してきた組織論と、松竹氏除名に関する志位氏の言葉を照らし合わせることは、極めて重要な示唆を与えてくれる。

1 「組織の自己目的化」と寡頭制の罠

碓井氏は、ロベルト・ミヒェルスの「寡頭制の鉄則」やチェスター・バーナードの経営組織論などを参照しながら、「組織はいったん成立すると、組織自体の維持・拡大が自己目的化する」という問題を論じている。

日本共産党の組織原則である民主集中制は、規約上は民主的な討論と多数決を保障すると同時に、「党内に派閥・分派はつくらない」と定めている。党内での異論そのものは禁止されていないが、同じ異論を持つ党員が横断的・継続的に結びつき、その意見を共有・組織化することは、分派禁止規定との関係で強い制約を受ける。さらに、決定に反する意見の対外発表も制限されている

松竹氏除名に関する記者会見(2023年2月 ※下に動画あり)において、志位委員長(当時)は処分の理由として「一人でやるんじゃなくて、事実上の分派を作って行った」「党に対する批判を表でやることはよくないと、分派を作ってはならないと書いてある」と明言した。

異論を持つ個人が存在しても、それが横につながり、指導部の方針に対抗しうる選択肢として熟成されるプロセスは、「規約違反」として物理的に遮断される。

この構造は結果として指導部の優位を無条件に再生産し、ミヒェルスの指摘する「組織の寡頭制化」を完成させる防衛機制として機能しているのである。

2 手続きの自己目的化と「目標の転移」

組織の自己目的化を考えるうえでもう一つ重要なのが、ロバート・K・マートンのいう「目標の転移」である。本来、組織の目的を実現するために設けられた規則や手続きが、いつの間にか「規則を守ること」自体を目的とするようになる。

手段だったものが目的へと転化する、官僚制の典型的な逆機能である。2023年の松竹氏除名問題は、この観点から検討することができる。

党の公式説明では、党首公選制の提案、安保・自衛隊政策をめぐる主張、他の党員との連携、党内手続きを経ずに外部で意見を表明したことなどが問題とされ、最終的には分派禁止や党決定に反する意見の対外発表禁止などへの規約違反として除名処分が行われた。

会見で志位氏は次のように力説した。 「私たちは異論を持ったことをもって除名したわけではありません。(中略)党内で正規のルートで意見を言う権利を行使しないまま、外から攻撃をしたということを問題にしております」

この言葉こそ、「目標の転移」の典型である。 本来問われるべきは、党首公選制は導入すべきでないのか、提起された安保政策の問題は妥当ではないのか、という「実質的な中身」である。

しかし党の論理では、「どのような経路で意見を表明したか」「規約上許される方法だったか」という手続き(コンプライアンス)が処分の決定的基準となる。手段であるはずの組織規律が目的そのものへ転化し、議論のテーブルを根底からひっくり返している。

1972年の新日和見主義事件も、同一視することはできないが、類似する問題を含んでいる。

党側は、政治路線上の異論に加え、民青中央内に秘密の分派が形成されたとして摘発した。一方、当事者側からは、民青の年齢問題や青年運動のあり方などをめぐる異論を契機に、広範な査問と処分が行われたとの証言もある。

事件の評価にはなお争いがあるが、異論と組織的連携が「分派」の問題へと転化され、内容の是非とは別に組織規律の問題として処理された点には、後年の問題と比較しうる構造がある。

3 露呈した自己矛盾・ダブルスタンダード――外部への批判と内部の盲点

さらにこの会見は、組織が硬直化する際に陥る「致命的な盲点」をも記録している。

動画の前半で「正規のルートを通さなかった」という手続き論で松竹氏を切り捨てた志位氏は、後半で政府の防衛費増や原発政策を問われると、一転してこう語気を強めている。

「中身を一切抜きでいいのか」
「ブラックボックスは許されない」
「(原発政策は)締め切りで決まる問題ではない。多数決で決まる問題でもない。事実と道理に基づいて説明すべきだ」

国政に対しては「問答無用の手続きの強行ではなく、事実と道理に基づく中身の議論を」と真っ当な要求を突きつけながら、自党のガバナンスにおいては「中身の検証を抜きにした、問答無用の手続きによる排除」を行っている。

まさにダブルスタンダード、強烈な自己矛盾に指導部自身が無自覚であることこそ、組織の自己目的化がもたらす最大の病理と言える。

4 再生への条件——「疎外」の克服と開かれた組織へ

碓井氏は『日本共産党、再生への条件』のなかで、若年層の支持離れや閉鎖的な組織体質を取り上げ、「民主集中制と組織の疎外」を正面から論じている。

「手続きの正当性」を守ることに組織の関心が集中し、異論を規律違反として処理し続ければ、短期的には統一を維持できるかもしれない。しかし長期的には、環境変化への適応力を弱め、内部からの修正能力を失わせる。

組織にとって本当に必要なのは、異論を素早く排除する能力ではない。不都合な事実や、従来の手続きではすくい上げられない意見にも耳を傾け、自らの方針や制度を修正できる能力である。 規律は組織の目的ではなく、手段である。その関係が逆転したとき、形式上の統一は保たれていても、内部の活力は失われていく。

「組織のための人間」から「人間のための組織」へ、日本共産党の再生を考えるうえでも、自己目的化した組織原則を絶対視せず、異論を組織の更新資源として生かせる仕組みに転換できるかどうかが、重要な分岐点になるのではないか。


動画タイムラインにみる「異論排除」の構造的分析

※ 記者会見 <Breaking News>日本共産党・志位和夫委員長に聞く

1:25〜2:00頃|「手続き」の絶対視(目標の転移)

  • 志位氏の発言: 「党内で正規のルートで意見を言う権利を行使しないまま、外から攻撃をしたことを問題にしている」

  • 分析: これこそがロバート・マートンの指摘する「目標の転移(手続きの自己目的化)」の典型だ。松竹氏が提起した「党首公選制」や「安保政策」という中身の妥当性ではなく、「党の正規のルートを通さなかった」という形式上の規律違反だけが最大の争点にすり替えられ、議論のテーブルを根底からひっくり返している。

3:18〜3:42頃|「分派の禁止」と寡頭制の防衛

  • 志位氏の発言: 「事実上の分派を作って行った。党に対する批判を外でやるのはよくないと規約に書いてある」

  • 分析: ロベルト・ミヒェルスの「寡頭制の鉄則」を体現する論理。同じ問題意識を持つ党員が横に連携することを「分派」として禁じることで、指導部に対抗しうる選択肢の形成を物理的・制度的に封殺している。組織の自己目的化(碓井氏の指摘)を守るための最も強力な防衛機制が働いている。

5:42〜6:20頃|「結社の自由」による自己正当化

  • 志位氏の発言: 「異論を持ったことで処分したわけではない。結社の自由(党の自律的ルール)を考えてほしい」

  • 分析: 結社の自由(組織が独自のルールを持つ権利)を盾にとることで、外部からの「言論封鎖ではないか」という普遍的な民主主義の問いをシャットアウトしている。「人間のための組織」ではなく「組織を維持・防衛すること自体が目的化した組織」の姿が浮き彫りになっている。

後半の政府批判(7:30〜)に見る強烈な自己矛盾

動画の後半で、話題が政府の防衛費増や原発政策に移ると、非常に皮肉な構造が露呈する。

  • 9:00〜11:40頃の志位氏の発言: 「中身を一切抜きでいいのか」「ブラックボックスは許されない」「多数決や締め切り(手続き)で決まる問題ではない。事実と道理に基づいて説明すべきだ」
  • 分析: 国政に対しては「手続きの強行ではなく、事実と道理に基づく中身の議論を」と真っ当な要求を突きつけている。しかし、まさにその「中身を抜きにした問答無用の手続きによる処理」と「意思決定のブラックボックス化」を、松竹氏の除名という自党のガバナンスにおいて行っているという自己矛盾に無自覚。

この会見動画は、他者(政府)の非民主的な手続きは鋭く批判できても、自らの組織内の権力構造には理論的メスを入れられないという、「組織の硬直化と適応力の喪失」を記録した貴重なケーススタディと言える。


参考:「著者と語る『シン・日本共産党宣言—ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』司会 伊藤雅之 日本記者クラブ企画委員(NHK)2023.2.6

党内改革や党首公選制の導入を訴えて除名処分を受ける契機となった書籍について、当事者が自らの言葉で背景や問題意識を語っている。


書籍紹介:「日本共産党、再生への条件:この組織を消滅させないために」
今こそ求められる、組織体質の転換  碓井 敏正 (著) 

追加資料)参考動画「朝日新聞2.8」社説について「あまりにも不見識だ。「朝日」は社説として掲げて日本共産党に対し、干渉攻撃した。」と発言する志位委員長。(該当部分頭出し)

参考X投稿)規約・ルールにのっとった発言者に対する対応

タイトルとURLをコピーしました