共産党研究 第Ⅴ部 SNS時代の政治
はじめに
昨今の選挙では、SNSの影響が大きな注目を集めている。政党や候補者がSNSをどのように選挙活動へ活用するのか。動画や投稿をどう拡散するのか。一方、有権者の側では、SNS上にあふれる情報をどのように見極めるのかが問題になっている。
しかし、SNSが政治にもたらした変化は、それだけではない。より大きな変化の一つは、政党の外側に巨大な公開討論空間が生まれたことではないだろうか。
党員、支持者、元党員、他党支持者、研究者、専門家、ジャーナリスト、保守、リベラル、特定の政治的立場をもたない市民までが、同じ政治問題について日常的に意見を発信している。
そこには誤情報もあれば、感情的な批判や誹謗中傷もある。しかし同時に、政治史、経済、外交、安全保障、法律、社会政策、党史などについて、専門的な知識にもとづく分析や、当事者だからこそ分かる経験も大量に存在している。
本稿では、SNSを「どう使うか」「どう情報を受け取るか」という通常の議論を踏まえたうえで、さらに一歩進んで考えたい。
1 SNSは選挙をどう変えたのか
SNSによって、政党や候補者は新聞やテレビを介さなくても、有権者へ直接情報を届けられるようになった。政策を文章で説明するだけでなく、短い動画、街頭演説の切り抜き、候補者の日常的な発信などを通じて、それまで政治に強い関心をもっていなかった人にも接触できる。
しかし、SNSの特徴は、政党自身が発信できることだけではない。支持者や一般市民が、自分の言葉で候補者や政策を紹介し、動画をつくり、投稿を共有する。それによって、政党組織の外側から情報が広がっていく。
近年の選挙で大きな支持を集めた政治勢力を見ても、組織から指示された人だけが発信しているのではない。その候補者や政策に魅力を感じた人々が、「これは広めたい」「応援したい」と自発的に発信することで、大きな波が生まれている。ここには重要な違いがある。
「拡散する人を組織的に増やす」ことと、「自然に拡散したくなる支持を生み出す」ことは違う。前者は既存の組織力をSNSへ移すことである。後者は、まだ組織に属していない人までが、自分の意思で参加することである。この違いは、SNS戦略を考えるうえで重要である。
2 日本共産党のSNS戦略をどう考えるか
日本共産党も近年、SNSを重視している。党員による発信、投稿への「いいね」やリポスト、動画の作成、SNSの学習などを強め、党全体として発信力を高めようとしている。
SNSでの発信量が不足しているという問題意識にも、一定の理由はあるだろう。情報が届かなければ、政策を知ってもらうこともできない。しかし、それだけでよいのだろうか。
他党や新しい政治運動がSNSを通じて新しい支持を広げる状況が生まれている一方、日本共産党では、それに匹敵する広がりは生まれていないのはなぜだろうか。
これは、党勢後退の要因を「自力不足」としている問題とも似ている。「組織が弱いから支持が広がらない」のではなく、「支持を広げられていないことの結果として組織も弱くなっている」という逆方向の関係も考えなければならない。
SNSについても同じである。発信する党員を増やせば投稿数は増える。しかし、高齢党員を含めて全党員にSNS技能の習得や拡散への参加を求めることで、支持拡大の問題そのものが解決するわけではない。問題は技術だけではない。
何を発信するのか。誰が語るのか。そして、その政党や候補者について、党外の人が自分の言葉で語りたくなるのか。そこまで問う必要がある。
党幹部自身もSNSで発信している。しかし、発信することと対話することは同じではない。党の方針や主張を発信し、支持者がそれを拡散するという使い方だけであれば、SNSは新しい宣伝媒体にはなっても、社会との双方向の対話空間にはならない。
3 立場ではなく、内容で判断する
SNSには、誤情報や切り取り、根拠のない断定、感情的な言説も少なくない。したがって、そこで語られていることを無条件に「社会の声」として受け入れることはできない。重要なのは、示された事実や根拠を確かめ、論理が成り立っているかを吟味することである。
その際、もう一つ注意したいのは、発言者の政治的立場と、その発言の価値を同一視しないことである。重要なのは、共産党を支持しているかどうかと、その議論から学ぶ価値があるかどうかは別問題だということだ。
SNSで日本共産党をめぐる議論を見ていると、党を強く支持する人から、党に批判的な人、保守、リベラルまで、さまざまな立場の人が発言している。しかし、政治的な立場と、その人の知識や論理性は必ずしも一致しない。
党を強く支持する人のなかには、党の公式見解を固定的な判断基準とし、それと異なる事実や異論を受け入れにくい人もいる。一方、党に批判的であっても、党史や政治史に加え、マルクス研究、資本主義経済、政治思想などの分野に専門的な知識をもち、重要な指摘をする人もいる。
政治的な議論では、ともすれば「あの人は党員だから」「党を批判しているから」「反共産主義だから」と、発言者の立場によって内容まで判断してしまう。しかし、本来問われるべきなのは、誰が言ったかではなく、何を言っているのかである。
その指摘は事実にもとづいているのか。論理は成り立っているのか。自分たちが見落としていた問題を示していないか。思想的位置とは切り離して、内容そのものを検討する必要がある。
4 SNSが生み出した「社会の知」
SNS以前にも、政党の外側には多くの知識や批判が存在した。研究者は論文や書籍を書き、ジャーナリストは政治を検証し、市民運動や労働運動でも議論が行われてきた。しかしSNSによって、それらが日常的に一つの公開空間で交差するようになった。
党の声明が出れば、さまざまな立場から検討される。政治家が発言すれば、過去の発言や資料と比較される。党史について説明すれば別の資料が提示され、政策については専門家や当事者が分析する。政党自身も、この公開された検証空間の外にいることはできない。
SNS上の議論すべてに価値があるわけではない。しかし、分散して存在する知識、経験、批判、問題提起が公開の場で交わされるようになったこと自体は、政治にとって大きな変化である。問題は、こうした「社会の知」を政党がどこまで自らの検証材料として受け取れるかである。
生活上の要求を聞くだけでなく、政策形成、候補者選定、組織運営、理論そのものへの批判まで、検討の対象とできるか。これはSNSの問題を超えて、党内の理論形成や民主主義のあり方に関わる問題である。
5 「党外から口を出すな」でよいのか
党に対する批判が出されると、「党外から党運営に口を出すべきではない」「不満なら別の党を支持すればいい」という意見もSNSでは見られる。
確かに、党の方針や人事を最終的に決める権限は党員にある。しかし、党の内部的な決定権と、社会がその決定を批判・評価することとは別問題である。政党は社会の支持を求め、選挙で有権者の評価を受ける存在だからである。
また、政党への関係は「全面的に支持する」か「全面的に否定する」かの二つしかないわけではない。「政策の多くを支持しているが、組織運営には批判がある」「現在は投票していないが、再生すれば支持したい」「社会に必要な政党だと思うからこそ、厳しく批判する」などの関係もある。
このように、現在の日本共産党のあり方には批判的であっても、長い歴史と全国的な組織基盤をもつ政党として、社会変革や民主主義的改革において果たしうる役割を評価している人々が存在する。
そこには、このまま党勢の後退が続けば、国会での議席をさらに失い、社会に対する政治的影響力も大きく縮小するのではないかという危機感がある。だからこそ、改革や再生を急ぐべきだと考え、発言しているのである。
こうした声まで「党外からの口出し」として退ければ、党を否定したいのではなく、その存在意義を認めているからこそ改革を求める人々まで遠ざけることになる。批判は、必ずしも敵意ではない。党への期待や、その将来に対する危機感から生まれる批判もあるということを強く指摘したい。
6 「双方向・循環型」は党自身にも及ぶのか
日本共産党は現在、「双方向・循環型」の活動を重視している。市民の声を聞き、その要求を政策に反映し、再び社会へ働きかけることは重要である。しかし、「循環型」というなら、その循環は政策要求だけでは不十分ではないか。
社会から返ってきた評価によって、活動方法や選挙方針を変える。候補者選定や組織運営を検証する。理論的な理解を問い直す。必要であれば、規約や組織原則についても議論する。そこまで循環が及んで初めて、本当の意味での双方向性になるのではないだろうか。
DSAは、組織による候補者評価とは別に、有権者による評価が存在する。オーストリア共産党は、市民の要求を聞き、一緒に問題を解決し、政策化し、再び社会から評価される循環がある。
SNSは、その循環をさらに広げる可能性をもっている。党 → 社会 → 評価・批判・知識 → 党による検証 → 政策・理論・組織の修正 → 社会、この循環が成立するなら、SNSは単なる宣伝媒体ではなく、政党自身が社会から学ぶための回路にもなる。
おわりに――発信する政党から、学ぶ政党へ
SNS時代の政治では、政党に三つの能力が求められる。一つは、どう発信するか。二つ目は、SNS上の情報をどう見極めるか。そして三つ目は、社会からどう学ぶかである。
日本共産党のSNS課題は、発信量や技術だけの問題ではない。社会から返ってくる評価や批判を、党自身の検証と更新につなげられるかが問われている。
そして、この問題はSNSだけにとどまらない。社会から入ってくる多様な知識や批判を、実際に党の理論や方針形成へ反映させるには、党内にどのような仕組みが必要なのか。
これについては「理論形成と党内民主主義」という問題から考えたい。
次回予告 第Ⅵ部【第15回(前編)】理論形成と党内民主主義――現在の組織運営と「異論」の壁

