【連載第13回】なぜ、オーストリア共産党は支持を広げているのか――日本共産党との比較から考える

情報発信・社会的影響

共産党研究 第Ⅳ部② 理念はどこで形成されるのか

はじめに

『しんぶん赤旗』は、近年、オーストリア共産党(KPÖ:カー・ペー・エー、独:Kommunistische Partei Österreichs)の活動と前進を繰り返し紹介している。

  • 2022年11月18日付の記事では、日本共産党の緒方靖夫副委員長がウィーンのオーストリア共産党本部を訪問し、グラーツで住宅問題に取り組み、「徹底して国民の利益を擁護する運動」を進めていることを直接聞いている。また、1968年のチェコスロバキア侵攻をめぐってソ連に追随し、党勢を後退させた「痛苦の経験」と、その後の「党刷新」についても紹介している。
  • 2023年4月28日付の記事は、ザルツブルク州議選で、オーストリア共産党が前回の0.4%から11.7%へ伸び、36議席中4議席を獲得したことを、「生活苦寄り添った結果」という見出しで報じた。住宅や福祉の相談、議員給与の一部を使った支援などを通じて住民との信頼を築いてきたことが、前進の背景として紹介されている。
  • さらに2024年3月13日付の記事では、ザルツブルク市議選3.7%から23%へ伸び、40議席中10議席を獲得して第2党となったことを紹介している。選挙では「住まいは基本的人権」を掲げ、住宅問題を前面に出した。
  • そして2026年6月28日のグラーツ市議会選挙では、35.70%を獲得し、48議席中18議席第1党を維持した。2021年に初めて第1党となって市政を担ってから5年後、得票率をさらに6.86ポイント伸ばしたのである。
  • 6月30日付『赤旗』は、この結果を「くらし充実 支持広げる」「家賃補助や公共住宅整備実現」と報じた。2021年以降、家賃補助や公共住宅の整備など、市民生活に直接かかわる政策を実現してきたことが、支持拡大の背景として紹介されている。
  • 続く7月7日付『赤旗』では、オーストリア共産党のマックス・ブリエ広報責任者が、グラーツで前進した理由として「徹底して市民に寄り添う姿勢」と「市民との日常的な対話」を挙げている。1990年代から住宅相談や戸別訪問などの草の根活動を続け、議員報酬の一部を困窮者支援に充ててきたこと、戸別訪問ではドイツ左翼党から学び、その経験をザルツブルクにも生かしてきたという。

このように、日本共産党は、オーストリア共産党の経験と前進の理由をかなり具体的に紹介し、直接交流も続けてきた。では、オーストリア共産党とはどのような政党で、なぜ支持を広げることができたのだろうか。

1 全国では小さな政党、グラーツでは第1党

オーストリア共産党は、1918年に結成された、100年以上の歴史をもつ共産党である。

オーストリアの人口は約920万人で、日本の13分の1程度である。オーストリア共産党は全国的には数千人規模の政党とされ、現在、183議席ある国民議会に議席を持っていない2024年の国民議会選挙でも得票率は2.39%にとどまり、議席獲得に必要な4%には届かなかった

一方、オーストリア第2の都市グラーツでは、市政を担う第1党である。

全国では国会議員さえ一人もいない小政党が、なぜ一つの大都市では3人に1人以上の支持を得て、市政を担った後も支持を広げることができたのか。ここに、この党を考えるうえで最も興味深い点がある。

2 生活の困難から始まり、政策として実現する

『赤旗』が紹介してきたオーストリア共産党の活動を見ると、その基本的な流れは明瞭である。

住宅や家賃、福祉など、市民が現実に抱えている問題から始める。相談を受け、具体的な解決のために一緒に行動する。それを選挙のときだけでなく、日常的に続ける。そして市政を担えば、その要求を政策として実現する。

6月30日付『赤旗』が紹介した家賃補助や公共住宅の整備は、その具体例である。日常的な関係のなかでつかんだ要求が、市政の政策として形になっている。

整理すれば、

生活上の困難 → 対話・相談 → 一緒に行動する → 政策として実現する → 信頼 → 政治的支持

という流れである。

2026年の選挙では、従来の支持者だけでなく、前回棄権した有権者や他党を支持していた層からも票を得たと分析されている。固定された「共産党支持層」のなかだけで支持を固めたのではない。

もう一つ注目したいのは、「共産党」という名称を掲げたまま支持を広げていることである。資本主義への批判を放棄したわけでもない。日本共産党と違うのは、理念を社会と結びつける順序である。

まず共産主義の理念を理解してもらうことから始めるのではなく、人々が現実に抱えている問題から出発し、ともに取り組み、政策として実現する。その実践を通じて、自分たちがどのような政治をめざしているのかを示している。

3 「助ける」のではなく「一緒に解決する」

この特徴を、日本共産党の小池晃書記局長が、2026年8月7日の全国地方議員・候補者決起集会での報告で紹介している。この報告の抜粋は、8月13日付『しんぶん赤旗』に掲載された。

グラーツでオーストリア共産党が第1党になった「秘けつ」は、市民との日常的な対話にあるというのだ。住宅問題などの相談を受けても、「私が代わりに解決する」「助ける」とは言わず、「一緒に解決しましょう」と話す。そうすることで、市民との関係も継続するという。

重要なのは、市民自身を問題解決の主体として位置づけていることである。政党が市民のために何かをしてあげるという関係ではなく、市民と政党がともに問題を解決していく。

小池氏はこの経験を紹介したうえで、日本共産党の選挙戦についても、「有権者の生の声をたくさん聞いて、それを踏まえて政策を打ち出すという循環型の選挙戦に発展させましょう。党の選挙戦のあり方を、一方通行でなく、「循環型・対話型」にするという、一大チャレンジをしようではありませんか」と呼びかけている。

4 日本共産党との違いはどこにあるのか

日本共産党にも、住民の要求に寄り添い、生活相談や住民運動を通じて信頼を築いてきた豊かな地方活動がある。日本共産党は生活要求を重視していない、ということではない。違いを考えるうえで注目したいのは、党と社会との関係をどう捉えるかである。

日本共産党では、「党の値打ちを知らせる」「綱領を語る」「国民の自覚と成長を促す」といった表現が使われる。

政党が理念や政策を国民に伝えることは当然必要である。しかし、「国民の自覚と成長を促す」という考え方は、党はすでに正しい認識を持っており、それをまだ十分に理解していない国民に伝える、という関係になりやすい。

それに対して、「一緒に解決しましょう」という関係は、市民から党への働きかけも含まれる。政党が社会に働きかけるだけでなく、人々の経験、要求、批判、選挙結果から党自身も学ぶ。ここまで含めて初めて、双方向の関係になるのではないだろうか。

日本共産党も、海外の左翼政党については、こうした自己変革を評価している。

2024年9月の欧州歴訪報告で志位和夫議長は、ベルギー労働党が「セクト主義、教条主義」によって前進を阻まれた経験から党を刷新し、「原則的で柔軟な党」をめざしたことを紹介した。草の根の声や要求、青年や労働者の関心に合わせた発信についても「大いに学びたい」と述べている。

オーストリア共産党についても、過去にソ連への追随によって党勢を後退させ、その「痛苦の経験」から党刷新に進んだ経過を、日本共産党は直接交流を通じて聞いている。

問題は、こうした海外の経験から得た視点を、日本共産党自身にも向けられるかどうかである。

5 「循環型・対話型」は党自身にも及ぶのか

2026年8月の小池報告では、グラーツの経験を評価し、日本共産党の選挙戦も「一方通行」でなく「循環型・対話型」へするという「一大チャレンジ」が提起されたことは重要だ。

一方、同じ報告では、党そのものの支持を広げること、党を語る力を高めること、党員・読者を増やすこと、科学的社会主義や綱領・規約を学ぶことも強く位置づけられている。

ここで、「循環型・対話型」の意味が問われる。

市民の声を聞き、それを政策に反映し、さらに党の政策や理念を伝えるという循環にとどまるのか。それとも、市民から示された評価によって、党自身の方針や活動のあり方まで検証するのか。

グラーツの経験から見えるのは、

市民から聞く → 政策にする → 実行する → 選挙で評価される → 検証する

という循環である。

この最後の「検証する」には、政策だけでなく、それを担う政党自身も含まれるはずである。

6 離党・会派離脱・除籍をどう受け止めるか

同じ小池報告では、「第29回大会以降、ごく一部に、地方議員の離党・会派離脱、党からの除籍などの事態が生じている」問題について次のように述べている。

「地方議員への援助の問題など、党として克服しなければならない課題もあります」と認める。しかし同時に、「国政選挙の連続後退、党勢の後退が続くなどのもとで、敗北主義的な気分に陥るとともに、党の綱領と規約への確信を失ってしまったことによるものも少なくありません」というのだ。

そして、その対応として求めているのが、科学的社会主義、綱領と規約を深く学び、「どんな困難があっても揺るがない政治的理論的確信、確固とした思想的立場」を確立すること。さらに、第29回党大会決定とともに、「赤本」「青本」の学習をしっかり位置づけることも強調する。

もちろん、離党や会派離脱にはそれぞれ異なる事情があり、そのすべてを党の側の問題として説明することも適切ではない。

しかし、「循環型・対話型」を党と社会との新しい関係として重視するのであれば、離党や会派離脱もまた、党自身を検証する材料として受け止める必要があるのではないだろうか。

なぜ離党に至ったのか。なぜ綱領や規約への確信を失ったのか。そこには個人の側の問題だけでなく、党の方針や組織運営、地方議員への対応など、党自身が改めるべき問題はなかったのか

それを十分に検証しないまま、「敗北主義」や「確信の喪失」に原因を求め、その対応を「揺るがない政治的理論的確信」や学習の強化に置くのであれば、循環は党自身の手前で止まってしまう。

政治的・理論的確信を持つことと、現実によって自らの認識を検証することは、本来、対立するものではない。むしろ、社会との対話を重視するのであれば、現実から返ってきた結果によって、自らの認識や方針を問い直すことも必要になる。

「循環型・対話型」は、有権者の声を党の政策に取り入れる方法にとどまるのか。それとも、党員や地方議員から示された異論や離党という現実も含めて、党自身が問い直され、必要なら変わるところまで及ぶのか。

オーストリア共産党の経験から学ぶというのであれば、この点も避けて通るべきではない。

おわりに

支持が広がらない理由を、「党の値打ちが伝わっていない」「自力が足りない」と説明するなら、解決策は、もっと知らせ、もっと活動し、党員や読者を増やすことになる。しかし、選挙で支持が繰り返し減少し、党自身が「重大な後退」と認めている以上、「知らせれば支持は広がる」という前提そのものも検証の対象にする必要がある。

問われるのは、活動量だけではない。方針、組織運営、社会との接点のつくり方も含めて、後退の原因を検証することである。海外の左翼政党が、教条主義や過去の誤りを認めて党刷新に進んだ経験を評価するのであれば、同じ基準を自らにも向けることが求められる。

オーストリア共産党から学ぶべきは、住宅相談や戸別訪問といった個別の活動手法だけではない。より根本にあるのは、少数である自分たちと社会の多数との関係をどう捉えるかという姿勢である。

国民をどう「自覚させ、成長させるか」ではない。「循環型・対話型」を掲げる以上、社会の声を政策に反映するだけでなく、政党自身が社会から学び、自らを検証して成長できるかが問われている。

『赤旗』が繰り返し紹介してきた欧州左翼の経験は、まさにそのことを日本共産党自身に問いかけているのではないだろうか。

次回予告 第Ⅴ部「理念はどこで形成されるのか」第14回】

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